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執筆者の写真Nobuo Ishimori

「手術は自然に反する」という意見に対して

更新日:2020年10月10日

「手術は自然に反するから、反対。」「子猫が産めなくなるなんて可哀想。」という意見が根強くあります。

たしかに、去勢不妊手術は自然の摂理に反します。

ですが、自然に反していても、手術は必要です。

理屈を整理してみます。


1 「動物」の分類

「動物」は、法令上、大きく2つに分類されます。

一つは野生動物、もう一つは、ペットを含む広義の家畜です。


2 野生動物

野生動物は、人間が生態に関与してはいけません。生態系が乱れてしまいます。たとえば、野生の熊や鹿にエサをあげては絶対にいけません。人間から食事をもらう習慣をつけてはいけない。あたりまえのことです。

彼らは、自然の摂理のままに繁殖行動し、厳しい自然の中、生まれた子どもの大半が死亡します。そして、強い個体、運の良い個体だけが生き残り、次世代に遺伝子を残していく。こうして、種の個体数は、おおむね一定数が保たれます。

「あんなに可愛い小鹿ちゃんが死ぬのは可哀想すぎる。どの小鹿も立派な成鹿になれるように、みんなでお世話しながら成長を見守ってあげよう」と、人間が小鹿たちにエサを与え、病気の時は動物病院に連れて行くならば、自然破壊そのものです。

個体数が増えすぎることになりますので、その理屈ならば、森の鹿たちの去勢不妊手術も必要ということになります。


3 広義の家畜(ペットを含む)

ここでは、「家畜」という言葉を「家の動物」という広い意味で使います。ですので、牛、馬、豚、羊等だけでなく、犬や猫等のペットも含んだ意味で使います。

「動物の愛護及び管理に関する法律」第44条には、「愛護動物」という概念が登場します。

「愛護動物」とは、以下の動物です。

●第44条第4項第1号

牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる

●第44条第4項第2号

前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬は虫類に属するもの


もうお分かりと思いますが、第44条に定められている「愛護動物」とは、広義の家畜を指していると思われます。

自然界の生き物ではなく、人間界の生き物、という意味です。


4 第1号の愛護動物とは

ここでは猫がテーマですから、第1号に列挙されている動物について、さらに考えてみます。

●牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひる

(法解釈上、上記は、飼われていなくても愛護動物です。つまりノラ犬やノラ猫も愛護動物です。)


すべて、古来から人間社会の一員として、人間からエサをもらい、人間社会で何らかの役割を果たしてきた動物たちです。

いわば、大昔から人間の仲間だった動物たちです。彼らは、人間と一緒に歴史を生きてきたのです。

彼らは、品種改良などによって、もはや自然界には存在しない種となっています。

ですから、彼らのことは、人間社会がきちんと面倒を見る責任があります。

単にお世話するだけでなく、彼らが人間社会の一員としてちゃんとやっていけるように、適正管理する責任があります。


5 野生の世界と人間の世界

野生の世界では、動物の赤ちゃんのほとんどが、病気や、肉食動物の餌食となって死んでいきますが、大きな大きな地球の摂理の中で、すべての命は巡っていきます。

可愛い赤ちゃんシマウマの命を、親ライオンが容赦なく奪いますが、そのことによって、子ライオンの命が明日へとつながっていきます。

そこには、人間的「可哀想」が入り込む余地はありません。


一方、人間の世界で生きる猫(愛護動物)は、野生の世界とは違います。

人間社会、特に住宅地においては、食うか食われるかという戦いが(ゼロではないにせよ)非常に少ないです。捕食されることが少ないのです。

野生動物はカロリーの低いエサを山中で得ていますが、住宅地のノラ猫は栄養価の高いエサを得やすいです。

したがって、自然界にいる他の動物とは異なり、成獣(成猫)になれる割合が高くなり、個体数が増えやすいのです。

増えすぎた猫は、ふん尿等、地域社会のトラブルの元となってしまいます。

人間は子孫を残すことについて自分たち自身でコントロールしますが、猫にはそれはできませんから、適正管理のため(=人と共生していくため)、去勢不妊手術が必要になります。


6 猫の去勢不妊手術とは

去勢不妊手術は、人間側の都合です。

猫自身は去勢不妊手術を望んではいません。むしろ嫌だと思います。

手術は、「人間社会の中で猫が生きていくために、止むを得ず行う処置」です。

「止むを得ず」ではありますが、現代日本の住宅地においては「必要不可欠」でもあります。


「猫の幸せのために手術してあげる」のではなく、「自然に反するし、怖い思いをさせるけれど、君たちがこの社会で生きていくためには、手術が必要なんだよ。ゴメン。」と行うものだと思います。

私は、手術が絶対に必要という考えですが、同時に、健康な動物の体にメスを入れる、という重みを忘れるべきではないとも、思っています。


「手術は自然に反する。可哀想だ。」と言うご意見に対する私の考えは、以下のとおりです。

「たしかに自然に反しますが、そもそも、猫は、自然の動物ではないのです。人からエサをもらって生きているということは、自然の動物ではないということです。猫は人間界の動物ですから、人と猫が共生できるように、人間がきちんと管理しないといけません。住宅地で猫が生きていくためには、去勢不妊手術は止むを得ない処置です。」


★★★★★★★★★★★★


人間って、自然の摂理に抗っていて、地球の異端児だなぁ、と思います。

だから、地球上で、人間の数だけが、ハイペースで増え続けていて・・・。

それでも、私は人間が好きで、人間社会で生きていく・・・。

矛盾していますね。

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